胆道癌の特徴
胆道癌は、癌の発生部位によって胆管癌、胆嚢癌、十二指腸乳頭部癌に大別されます。胆管癌はさらに、肝臓の中の胆管に発生した肝内胆管癌、肝臓の外にある胆管に発生した肝外胆管癌(肝門部領域胆管癌と遠位胆管癌)に区別されます。肝内胆管癌は発生部位が肝内のため、がん登録・統計上は原発性肝癌に含まれます。
国立がん研究センターがん情報サービスによると、2017年の胆嚢・胆管癌の罹患数は22,663人、肝内胆管癌を含む肝癌の罹患数は39,401人でした。同様に国立がん研究センターがん情報サービスによると、2019年の胆嚢・胆管癌による死亡者数は17,924人、肝内胆管癌を含む肝癌による死亡者数は25,264人でした。罹患数及び死亡数の推移は下図のとおりです。
日本における胆道癌・肝癌の罹患数
胆嚢・胆管癌(肝内胆管癌を除く)
肝癌(肝内胆管癌を含む)
注)1975~2015年は地域がん登録の全国推計値のがん罹患データ、2016~2017年は全国がん登録の全国がん罹患データ
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(人口動態統計)より作図
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html(2020年12月時点)
日本における胆道癌・肝癌の死亡者数
胆嚢・胆管癌(肝内胆管癌を除く)
肝癌(肝内胆管癌を含む)
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(人口動態統計)より作図
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html(2020年12月時点)
2009~2011年に診断・登録された胆嚢・胆管癌患者の5年相対生存率は24.5%、肝及び肝内胆管癌患者の5年相対生存率は35.8%であり、全部位平均の64.1%と比べ低いことが報告されています。胆道癌は予後不良な難治癌といえます。
日本におけるがん部位別5年相対生存率(2009~2011年診断例)
全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020) https://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/dl/cancer_survival(1993-2011).xls(2021年1月時点)より作図
胆道癌は分類によっても生存期間が異なることが知られています。
1992~2010年に米国Mayo Clinicのレジストリに登録された胆管癌患者を対象に、胆管癌の部位別の転帰を比較したレトロスペクティブ研究では、全生存期間(OS)の中央値は、遠位胆管癌で22ヵ月、肝門部領域胆管癌で13.9ヵ月、肝内胆管癌で13.5ヵ月であったことが報告されています。
胆管癌の部位別全生存期間(OS)(海外データ)
肝内胆管癌 n=90 | 遠位胆管癌 n=48 | 肝門部領域胆管癌 n=104 | |
---|---|---|---|
OS中央値(月) | 13.5 | 22 | 13.9 |
【対象・方法】 米国Mayo Clinicのレジストリに登録された胆管癌患者242例を部位別(肝内胆管癌、肝門部領域胆管癌、遠位胆管癌)に分類し、後方視的に検討した。各分類における生存期間をKaplan-Meier法を用いて推定し、各群の全生存期間中央値をノンパラメトリックt検定で比較した。
Waseem D, et al. Ann Hepatol. 2017; 16(1): 133-139.
日本における肝内胆管癌の診断時ステージ分布
(2018年)
肝内胆管癌が予後不良である原因の一つとして、早期発見が難しいことがあげられます。院内がん登録の2018年全国集計に登録された肝内胆管癌患者における人口統計学的特性を集計したところ、肝内胆管癌のステージ分布は、ステージIVが約半数を占めており、肝内胆管癌は進行した状態で診断されるケースが多いことが示されています。
注)ステージは何らかの治療が行われる以前に診断されたステージを指す。亜分類不明等があるため、亜分類の合計が必ずしも当該病期の総数と一致しない。
【対象・方法】 国内の819施設(がん診療連携拠点病院、都道府県推薦病院、小児がん拠点病院、任意参加病院を含む)で2018年1月1日~12月31日に初回の診断が行われた肝内胆管癌患者3,706例を対象に人口統計学的特性、病期、治療等を集計した。
国立がん研究センター・がん対策情報センター「がん診療連携拠点病院等 院内がん登録」2018年全国集計報告書 (都道府県推薦病院、小児がん拠点病院、任意参加病院を含む) https://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/brochure/2018_report.pdf(2021年1月時点)より作図
肝内胆管癌では、ステージが進行するほど初回治療の選択肢が減っていきます。
ステージI、II、IIIの初回治療としては手術のみが、それぞれ64.5%、55.7%、37.2%でしたが、ステージIVでは手術のみが4.9%と低く、薬物療法のみが48.4%を占めていました。
また、治療なしの割合はステージの進行とともに増加し、ステージIVでは37.0%、最も進行したステージIVBでは40.6%にのぼります。
日本における肝内胆管癌患者の初回治療方法
(2018年)
(%)
取り扱いステージ 全体 | I期 248例 | II期 616例 | III期 573例 | IV期 1,812例 | IVA 519例 | IVB 1,253例 | 不明 346例 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
手術のみ | 64.5 | 55.7 | 37.2 | 4.9 | 13.5 | 1.5 | 25.7 |
内視鏡のみ | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
手術+内視鏡 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
放射線のみ | 1.2 | 2.8 | 0.7 | 1.4 | 0.8 | 1.7 | 1.4 |
薬物療法のみ | 2.8 | 9.3 | 20.8 | 48.4 | 42.4 | 50.5 | 24.6 |
放射線+薬物 | 0.4 | 0.8 | 0.5 | 1.7 | 0.6 | 2.2 | 0.0 |
薬物+その他 | 1.6 | 1.6 | 1.9 | 1.8 | 2.7 | 1.5 | 0.9 |
手術/内視鏡+放射線 | 0.0 | 0.2 | 0.3 | 0.2 | 0.4 | 0.1 | 0.0 |
手術/内視鏡+薬物 | 5.6 | 11.7 | 13.3 | 3.5 | 9.1 | 1.3 | 4.3 |
手術/内視鏡+その他 | 0.8 | 1.8 | 1.4 | 0.2 | 0.6 | 0.0 | 0.6 |
手術/内視鏡+放射線+薬物 | 0.0 | 0.0 | 0.2 | 0.1 | 0.4 | 0.0 | 0.0 |
他の組み合わせ | 4.4 | 2.4 | 2.1 | 0.8 | 1.0 | 0.6 | 0.6 |
治療なし | 18.5 | 13.8 | 21.6 | 37.0 | 28.7 | 40.6 | 41.9 |
注)治療法は当該腫瘍の縮小・切除を意図したがん組織に対する治療のうち、当該腫瘍に関する最初の診断に引き続き行われた腫瘍に対する治療(初回治療)とする。
【対象・方法】 国内の819施設(がん診療連携拠点病院、都道府県推薦病院、小児がん拠点病院、任意参加病院を含む)で2018年1月1日~12月31日に初回の診断が行われた肝内胆管癌患者3,706例を対象に人口統計学的特性、病期、治療等を集計した。
国立がん研究センター・がん対策情報センター「がん診療連携拠点病院等 院内がん登録」2018年全国集計報告書 (都道府県推薦病院、小児がん拠点病院、任意参加病院を含む) https://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/brochure/2018_report.pdf(2021年1月時点)より作図
肝内胆管癌の診断時ステージによっても生存期間は異なります。
米国SEERレジストリに登録され1998~2013年に外科治療を受けた肝内胆管癌患者を対象にした観察研究では、AJCC分類第8版に基づき分類されたステージごとのOS中央値は、ステージIAで81ヵ月と最も長く、病期の進行とともに短くなり、ステージIVでは9ヵ月であったことが報告されています。
肝内胆管癌の診断時ステージ別全生存期間(OS)(海外データ)
ステージ分類 (AJCC第8版) | 中央値(月) (95%信頼区間) | 5年生存率 (%) |
---|---|---|
IA | 81(60, 116) | 57.8 |
IB | 57 (42, 87) | 44.5 |
II | 33(27, 41) | 30.5 |
IIIA | 24(15, 31) | 24.4 |
IIIB | 15(13, 19) | 12.4 |
IV | 9(6, 12) | 8.6 |
AJCC:American Joint Committee of Cancer
【対象・方法】 米国SEER(Surveillance Epidemiology and End Results Program)レジストリに登録され、1998~2013年に外科治療(切除)を受けた肝内胆管癌患者1,008例を追跡観察し、AJCC(American Joint Committee of Cancer)分類第7版又は第8版に基づく病期分類を行い、各分類における全生存期間(OS)及び疾患特異的生存率(DSS)をKaplan-Meier法を用いて推定した。
Kim Y, et al. J Surg Oncol. 2017; 116(6): 643-650.