胆道癌における
がんゲノム医療
がん遺伝子パネル検査が保険収載されて以降、C-CATに登録された月別の検査件数は増加の一途をたどり、2024年時点では、月2,000件前後の検査が行われています。胆道癌は、世界的には希少癌という位置づけであるものの、国内における検査の部位別割合では3番目に多い状況です。
がん遺伝子パネル検査の部位別癌腫割合とその件数
国立がん研究センター. がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査. C-CAT調査結果 統計情報
https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/library/statistics/(2024年5月時点)
保険適用となる2種類の腫瘍組織を対象とした
がん遺伝子パネル検査における先行研究データ1)
がん遺伝子パネル検査は、臨床的には診断・予後・治療のそれぞれに関わる遺伝子を調べることに意義がありますが、現在は治療に関わる遺伝子異常、つまり「アクショナブルな遺伝子異常」を調べるために実施されています。わが国では現在腫瘍組織もしくは血液を対象としたがん遺伝子パネル検査として、OncoGuide™ NCCオンコパネルシステム、FoundationOneⓇ CDxがんゲノムプロファイル、FoundationOneⓇ Liquid CDxがんゲノムプロファイル、Guardant360 CDx がん遺伝子パネル、GeneMine TOPがんゲノムプロファイリングシステムの5つの検査が保険承認されています。
先行研究によると、アクショナブルな遺伝子異常が検出される割合は50%前後、実際に治療に結びついた割合は10%前後であったとされています。
*TP53、BRCA、STK11などの遺伝子異常について、それらに対する細胞障害性抗がん剤の推奨をもってアクショナブルな遺伝子異常として定義づけた為高い割合になっている。
1)角南久仁子, 畑中豊, 小山隆文 編. がんゲノム医療遺伝子パネル検査実践ガイド, 第4章 実際の使用に際して, 適切な治療の探し方(下井辰徳). 医学書院. 2021. P.186 より改変
2)Tanabe Y, et al. Mol Cancer. 2016; 15(1): 73.
3)Sunami K, et al. Cancer Sci. 2019; 110(4): 1480-1490.
4)Hirshfield KM, et al. Oncologist. 2016; 21(11): 1315-1325.
5)Sohal DP, et al. J Natl Cancer Inst. 2015; 108(3): djv332.
胆道癌の部位別遺伝子異常
胆道癌においては、部位ごとに遺伝子異常のプロファイルが異なることが報告されており、FGFR2融合遺伝子は肝内胆管癌で特異的に発現することが認められています。
日本肝癌研究会 編. 肝内胆管癌診療ガイドライン(2021年版). 金原出版. 2020, p34
胆道癌の部位とアクショナブル遺伝子の関係
手術を受けた日本人胆道癌患者219人を対象としたがん遺伝子の分析においては、肝内胆管癌と診断された66例でアクショナブル遺伝子が50%の症例に認められており、その内FGFR2融合遺伝子陽性は9.1%の症例で認められています。
一方で、肝外胆管癌と診断された153例においては、アクショナブル遺伝子が26.8%の症例で認められ、FGFR2融合遺伝子陽性例は0.7%であったことが報告されています。
統計的検定は、Actionabilityについてはカイ二乗検定を、各遺伝子についてはFisherの検定を用いた。
対象・方法: | 手術を受けた胆道癌患者219人のゲノムデータとトランスクリプトームデータを分析した。アクショナブルな変異と候補薬は、アジア人の人口で利用可能な最大のCancerSCAN®を使用して注釈が付けられた。免疫チェックポイント阻害剤の予測バイオマーカーは、DNAおよびRNAシーケンスデータを使用して分析した。 |
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Okawa Y, et al. Oncotarget. 2021; 12(15): 1540-1552.
日本の肝内胆管癌患者におけるFGFR2融合遺伝子の発現頻度
肝内胆管癌の治療標的として注目されるFGFR2融合遺伝子の日本人における発現頻度は、5.3~13.6%程度と報告されます。
1) Arai Y, et al. Hepatology. 2014; 59(4): 1427-1434.
2) Maruki Y, et al. J Gastroenterol. 2021; 56(3): 250-260.
3) Tsujie M, et al. Jpn J Clin Oncol. 2021; 51(6): 911-917.
胆道癌におけるMSI-High、TMB-High、NTRK融合遺伝子の発現頻度
また、がん遺伝子パネル検査の解析対象であるMSI-Highは2.2%、TMB-Highは4.0%、NTRK融合遺伝子は0~0.5%の頻度で認められており、いずれも胆道癌の治療標的として注目されています。
1) Akagi K, et al. Cancer Sci. 2021. doi:10.1111/cas14804. Online ahead of print.
2) Shao C, et al. JAMA Netw Open. 2020; 3(10): e2025109.
3) Okamura R, et al. JCO Precis Oncol. 2018; 2018: PO.18.00183.
4) Vogel A, et al. Ann Oncol. 2023; 34(2): 127-140.
胆道癌におけるがん遺伝子パネル検査実施後の治療選択オプション(2022年8月)
MSI-High陽性例及びTMB-High陽性例に対してはペムブロリズマブが「がん化学療法後に増悪した進行・再発のMSI-Highを有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」及び「がん化学療法後に増悪した高い腫瘍遺伝子変異量(TMB-High)を有する進行・再発の固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」の適応を有しています。また、NTRK融合遺伝子陽性例に対してはROS1/TRK阻害薬のエヌトレクチニブ及びTRK阻害薬のラロトレクチニブが「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形癌」の適応、BRAF 遺伝子変異陽性例に対しては、BRAF阻害薬のタダラフェニブ及びMEK阻害薬のトラメチニブが「標準的な治療が困難なBRAF遺伝子変異を有する進行・再発の固形腫瘍(結腸・直腸癌を除く)」の適応があり、臓器横断的に保険適用となっています。
加えて、胆道癌治療では、これらの保険診療下での治療選択に該当しないアクショナブルな遺伝子異常が検出された場合でも、適応外申請、先進医療B、患者申出療養制度を利用して適応外薬の治療を選択することができます。また、治験登録の基準に合致する遺伝子異常が検出された場合は、日本国内の治験へ紹介することも可能です。
このように、胆道癌治療におけるがん遺伝子パネル検査は、既承認薬への適応判定の補助だけでなく、未承認薬や適応外薬への適応判定補助の役割も果たしており、多くの患者さんが検査によるメリットを享受できると予想されています。
注意:アクショナブル遺伝子異常が検出された場合すべての患者で治療がみつかるわけではありません。
*各製剤の適応症(各製剤添付文書より抜粋)
ぺムブロリズマブ: | がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)及びがん化学療法後に増悪した高い腫瘍遺伝子変異量(TMB-High)を有する進行・再発の固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る) |
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ラロトレクチニブ硫酸塩及びエヌトレクチニブ:NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形癌
ペミガチニブ: | がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道癌 |
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タダラフェニブメシル酸塩及びトラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物:標準的な治療が困難なBRAF遺伝子変異を有する進行・再発の固形腫瘍(結腸・直腸癌を除く)
河合忠 他 編. 臨床検査 第64巻 第10号(10月・増刊号)がんゲノム医療用語辞典. 医学書院. 2020. p.1070 改変
※各製剤の詳細は、添付文書をご参照ください。
胆道癌のがん遺伝子パネル検査における検体採取タイミング
一方で胆道癌治療におけるがん遺伝子パネル検査のメリットを正しく享受するためには、適切なタイミングで検体採取を行い検査を行うことも重要です。FGFR2融合遺伝子の診断に必要な検体採取のタイミングとしては、胆道癌の鑑別診断時や、化学療法施行前の生検による検体採取、又は手術による切除が可能な場合は、手術で摘出した臓器からの検体採取などが考慮されます。
監修:杏林大学医学部 腫瘍内科学 教授 古瀬純司 先生
FoundationOne® CDx がんゲノムプロファイルにおける検体作製手順とポイント
がん遺伝子パネル検査であるFoundationOne® CDxがんゲノムプロファイルにおける検体作製時には特に、厚さ4~5μmの切片を10枚以上作製し、組織切片の合計体積が1mm3以上となるよう、組織が小さい場合は必要に応じて切片を追加すること、組織切片に含まれる有核腫瘍細胞の割合が最適30%以上、最低20%以上となるFFPEブロックを選択することの2点は、検査を実施するうえで重要なポイントとされています。さらに、FoundationOne® CDxは切片からDNAを抽出して遺伝子解析を行う検査であるため、切片を作る際の固定、保存、薄切などの手順にも、通常の病理組織標本とは異なる注意が必要とされています。
参考:FoundationOne® CDx がんゲノムプロファイル 検体の作製・種類ページ
FoundationOne® CDx がんゲノムプロファイルについての詳しい情報は以下のサイトをご参照ください。
https://chugai-pharm.jp/pr/npr/f1/f1t/test/speci/(2024年5月時点)
FoundationOne® CDx がんゲノムプロファイルに関するお問い合わせ先は中外製薬株式会社になります。