FGFR遺伝子
について

胆道癌
MLN

FGFRはFGFR1~4の4種類が同定されており、3つの細胞外免疫グロブリン様ドメインと膜貫通領域、細胞内チロシンキナーゼドメインからなる膜貫通型の受容体型チロシンキナーゼです。FGFRは線維芽細胞増殖因子FGFが結合することで二量体を形成します。これにより、下流のシグナル伝達の活性化が惹起され、様々な細胞応答を引き起こします。

FGF/FGFRシグナル伝達経路

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図:FGF/FGFRシグナル伝達経路

ERK:細胞外シグナル調節キナーゼ、DAG: ジアシルグリセロール、FGF: 線維芽細胞増殖因子、FGFR: 線維芽細胞増殖因子受容体、FRS2: FGFR基質2、GRB2: 増殖因子受容体結合タンパク質2、PI3K: PI3キナーゼ、PLC: ホスホリパーゼ、STAT: シグナル伝達兼転写活性化因子

1) Babina IS, et al. Nat Rev Cancer. 2017; 17(5): 318-332.
2) Turner N, et al. Nat Rev Cancer. 2010; 10(2): 116-129.
3) Sarabipour S, et al. Nat Commun. 2016; 7: 10262.
1-3)より作図

FGFR遺伝子異常がみられる腫瘍部位と頻度

FGFRシグナル伝達の調節異常が、癌の形成及び進行を引き起こし、治療抵抗性につながることが知られています。FGFRの遺伝子異常は様々な腫瘍で認められますが、遺伝子異常の種類は腫瘍の部位によって異なります。
なかでもFGFR2融合遺伝子は胆管癌にみられるドライバー遺伝子で、特に肝内胆管癌で認められています。
FGFR2融合遺伝子とは、FGFR2遺伝子とAHCYL1など別の遺伝子の再構成によって形成された融合遺伝子で、140種類以上のFGFR2融合パートナーが肝内胆管癌で検出されています。
また、FGFR1融合遺伝子陽性の骨髄性又はリンパ性腫瘍は、染色体のFGFR1遺伝子が存在する領域「8p11」が切断され、他の遺伝子と融合することで発症します。現在までに16のパートナー遺伝子が認められ、パートナー遺伝子によって臨床像が異なることが知られています。

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遺伝子異常腫瘍部位/種類頻度試験概要
FGFR1融合/
再構成
8p11骨髄増殖症候群100%1)【概要】8p11骨髄増殖症候群(EMS)は「FGFR1遺伝子異常を伴う骨髄系とリンパ系の腫瘍」が発生する疾患であり、FGFR1遺伝子異常の頻度は100%である。EMSは「好酸球増多とPDGFRAPDGFRB又はFGFR1遺伝子異常を伴う骨髄系とリンパ系腫瘍」の包括的な用語であり、8p11-12染色体遺伝子座でFGFR1遺伝子の分子的混乱が発現すると定義された、明確な臨床病理学的疾患単位である。その結果として、FGFR1チロシンキナーゼの構成的活性化を伴う新たな融合遺伝子とキメラタンパク質を形成する。様々なパートナー遺伝子の機能は、FGFR1二量化及び活性化を促進することで、腫瘍形成を含む下流経路の活性化を促進する。
FGFR2融合/
再構成
胆管
(肝内)
13%2)【対象・方法】1993年9月~2009年10月にMayo Clinicで胆管癌又は胆管の胆管内乳頭状腫瘍(IPNB)と診断され外科治療を受けた症例で、ホルマリン固定パラフィン包埋された保管診断材料156例分(胆管癌患者152例及びIPNB患者4例)を回収し、FISH法によりFGFR2遺伝子転座の存在及びFGFR2遺伝子転座を伴う臨床病理学的特徴を評価した。
【結果】FGFR2遺伝子転座を伴う胆管腫瘍は13/156例(8%)で、そのうち肝内胆管癌患者が12/96例(13%)及びIPNB患者1/4例(25.0%)であり、肝門部領域(25例)及び肝外(31例)には存在しなかった。
【Limitation】FGFR2遺伝子転座の存在に関するlimitationの記載なし。
FGFR2融合/
再構成
胆管
(肝内:84%)
13%3)【対象・方法】2013年8月15日~2014年1月20日に収集しBCR(Biospecimen Core Resource)に輸送された胆管癌患者の腫瘍38検体(肝内胆管癌:84%)を対象とした。検体は、化学療法又は放射線療法による治療歴のない患者から取得し、−180℃を維持して供給源となる12施設(生物検体を提供する大学等の研究施設)から一晩のうちに輸送された。
【結果】RNAシーケンスデータによる遺伝子融合を解析したところ、5/38検体(13%)でFGFR2遺伝子融合転写物の発現が確認された。
【Limitation】60%以上の腫瘍核を含む腫瘍検体はわずかで、核酸の抽出には壊死が20%以下の腫瘍を用いた。
FGFR2融合/
再構成
胆管
(肝内)
14%4)【対象・方法】外科的切除及び/又は従来の化学療法後に臨床的に病勢進行した肝内胆管癌患者28例のホルマリン固定パラフィン包埋組織(肝生検16例、肝切除10例、リンパ節転移1例、肺転移1例)の4ヵ所から各10μmを切除してDNAを抽出し、ライブラリを構築してハイブリッドキャプチャー法による次世代シーケンシングを行った。DNAシーケンシングは、182のがんに関連する遺伝子の3,320エクソン及びがんにおける高頻度に再構成された14の遺伝子の36イントロンをインデックスとして、アダプタ連結したハイブリッドキャプチャー法により実施した。
【結果】20/28例(71%)に、平均1.07ヵ所の異常の可能性が認められ、そのうち、FGFR2遺伝子異常は14%含まれていた。
【Limitation】FGFR2に関連したlimitationの記載なし。
FGFR3変異膀胱
(筋層非浸潤性)
50%–60%5)【膀胱癌のFGFR3遺伝子変異に関する概要】尿路上皮癌は、低グレード及び低ステージ腫瘍で最大80%のFGFR3遺伝子変異が発現すると報告されているが、この異常は浸潤性の高グレード膀胱癌では20%未満となる(文献中の一覧表で左記のFGFR3遺伝子異常の発現頻度が示されている)。尿路上皮細胞の腫瘍におけるFGFR3遺伝子変異の多くは細胞外及び膜貫通領域(R248C、S249C、G370C及びY373C)に発現し、リガンド非依存性の二量化及び構造的活性化を誘発する。FGFR3のキナーゼ領域の変異(K650E、K650M)も強化したキナーゼ活性を誘導する。
FGFR3遺伝子とTACC3(transforming acidic coiledcoil)との融合は、浸潤性膀胱腫瘍の部分集団で特定された(Leeds-East Research Ethics Committeeの承認を得て取得した43腫瘍細胞株のウェスタンブロッティング法によるスクリーニングで9検体にFGFR3タンパク発現が特定され、そのうち3検体で4つの遺伝子融合が特定されたa))。FGFR3の構成要素はPLCγ結合部位を含む最終のエクソンを欠失するため、負の調整が欠損し、活性化した受容体の高発現を誘導する。特に、細胞株は選択的FGFR阻害薬に対して極めて高い感受性がある。
a) Williams SV, et al. Hum Mol Genet 2013; 22(4): 795–803.
FGFR3変異膀胱
(筋層浸潤性)
10%–15%5)
FGFR3融合/
再構成
膀胱
(筋層浸潤性)
6%5)

1)Jackson CC, et al. Hum Pathol. 2010; 41(4): 461-476.
2)Graham RP, et al. Hum Pathol. 2014; 45: 1630‒1638.
3)Farshidfar F, et al. Cell Rep. 2017; 18(11): 2780–2794.
4)Ross JS, et al. The Oncologist. 2014; 19: 235–242.
5)Dienstmann R, et al. Ann Oncol. 2014; 25(3): 552-563.