がんゲノム医療とは

がんゲノム医療とは、厚生労働省の第4回がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会において、「がん患者の腫瘍部及び正常部のゲノム情報を用いて治療の最適化・予後予測・発症予防をおこなう医療」と定義された、遺伝子の情報に基づくがんの個別化医療を指します。
従来のコンパニオン診断では、1回の検査で1種類の遺伝子変異を調べる為、対応する薬剤が見つかるまで、複数回の検査を実施する必要があり、複数の遺伝子を調べる為には時間と費用がかかるものでしたが、2019年6月より保険収載となったがん遺伝子パネル検査では、複数のがん関連遺伝子を一括で調べるため、1回の検査で遺伝子変異に応じた薬剤の選択が可能です。

がん遺伝子パネル検査とコンパニオン診断の違い

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河合忠 他 編. 臨床検査 第64巻 第10号(10月・増刊号)がんゲノム医療用語辞典. 医学書院. 2020. より作成

がん遺伝子パネル検査の保険適用となる対象患者は、標準治療終了(見込み)もしくは標準治療がない進行・再発固形がん患者で、1症例に対して1回のみとされています。

がん遺伝子パネル検査を用いたがんゲノム医療の流れ

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がん遺伝子パネル検査の対象となる患者は、①又は②を満たし、全身状態及び臓器機能等から、本検査施行後に化学療法の適応となる可能性が高いと主治医が判断した者。

厚生労働省. 第12回がん診療提供体制のあり方に関する検討会(令和元年6月12日 資料2-1)より改変
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000517447.pdf(2022年2月時点)
角南久仁子, 畑中豊, 小山隆文 編. がんゲノム医療遺伝子パネル検査実践ガイド, 第4章 実際の使用に際して, 適切な治療の探し方(下井辰徳). 医学書院. 2021. p.186 より改変

がん遺伝子パネル検査の流れを下図に示します。検体提出後、シークエンスにより得られた包括的なゲノムプロファイルの結果は、エキスパートパネルにおいて評価され、そこで決定した治療方針等を文書にまとめて患者さんに説明します。

日本におけるがん遺伝子パネル検査実施フローと償還される保険点数(2024年6月)

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厚生労働省.がんゲノム医療の提供体制について(案)より作成 https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000512479.pdf(2022年2月時点)
FoundationOne® CDx がんゲノムプロファイル検体作製ガイドより作成 https://chugai-pharm.jp/pr/npr/f1/index/(2022年2月時点)
厚生労働省.中央社会保険医療協議会 総会(第516回)議事次第, 総-1, 個別改定項目について(令和4年2月9日)より作成
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000905284.pdf(2022年3月時点)

がん遺伝子パネル検査の検体提出時に44,000点、エキスパートパネル結果を患者に説明した場合に12,000点が算定されます。

がんゲノムプロファイリング検査の診療報酬点数(2024年6月)

がんゲノム 
プロファイリング 
検査

44,000点
D006-19

<算定要件>

  1. 別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局等に届け出を行った保険医療機関において実施した場合に限り算定する。
  2. 抗悪性腫瘍剤による治療法の選択を目的として他の検査を実施した場合であって、当該検査の結果が当該薬剤による治療法の選択に資する場合には、所定点数から当該他の検査の点数を減算する。

<実施上の留意事項>(抜粋)

  1. 固形腫瘍の腫瘍細胞又は血液を検体とし、 100以上のがん関連遺伝子の変異等を検出するがんゲノムプロファイリング検査に用いる医療機器等として薬事承認又は認証を得ている次世代シーケンシングを用いて、包括的なゲノムプロファイルの取得を行う場合に、 検体提出時に患者1人につき1回 (以下のイの場合については、血液を検体とする検査を含めて2回) に限り算定できる。 ただし、 血液を検体とする場合については、以下に掲げる場合にのみ算定できる。
    ア 医学的な理由により、 固形腫瘍の腫瘍細胞を検体としてがんゲノムプロファイリング検査を行うことが困難な場合。 この際、 固形腫瘍の腫瘍細胞を検体とした検査が実施困難である医学的な理由を診療録及び診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。
    イ 固形腫瘍の腫瘍細胞を検体として実施したがんゲノムプロファイリング検査において、包括的なゲノムプロファイルの結果を得られなかった場合。 この際、 その旨を診療録及び診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。
  2. 「注2」に係る規定は、固形腫瘍の腫瘍細胞又は血液を検体とし、 100以上のがん関連遺伝子の変異等を検出するがんゲノムプロファイリング検査に用いる医療機器等として薬事承認又は認証を得ている次世代シーケンシングを用いて、 次に掲げる抗悪性腫瘍剤による治療法の選択を目的とした検査を実施した際に併せて取得している包括的なゲノムプロファイルの結果を、 標準治療後 (終了が見込まれる場合も含む。)にエキスパートパネルで検討を行った上で、 治療方針等について文書を用いて患者に説明することにより、 「B011-5」に掲げるがんゲノムプロファイリング評価提供料を算定する場合に適用する。 なお、 この場合には(2)から(5)までを満たすこと。 この際、 診療報酬明細書の摘要欄に、包括的なゲノムプロファイルの結果を併せて取得した検査の実施日を記載すること。
肺癌におけるEGFR遺伝子検査、ROS1融合遺伝子検査、ALK融合遺伝子検査
乳癌におけるRAS遺伝子検査、HER2遺伝子検査
大腸癌におけるRAS遺伝子検査、HER2遺伝子検査、BRAF遺伝子検査
固形癌におけるマイクロサテライト不安定性検査
肺癌におけるMETex 14遺伝子検査
悪性黒色腫におけるBRAF遺伝子検査
固形癌におけるNTRK融合遺伝子検査、 腫瘍遺伝子変異量検査
胆道癌におけるFGFR2融合遺伝子検査
卵巣癌又は前立腺癌におけるBRCA1遺伝子及びBRCA2遺伝子検査
がんゲノム
プロファイリング
評価提供料

12,000点

B011-5

<算定要件> 

別に厚生労働大臣が定める施設基準を満たす保険医療機関において、 区分番号D006-19に掲げるがんゲノムプロファイリング検査により得られた包括的なゲノムプロファイルの結果について、当該検査結果を医学的に解釈するためのがん薬物療法又は遺伝医学に関する専門的な知識及び技能を有する医師、 遺伝カウンセリング技術を有する者等による検討会での検討を経た上で患者に提供し、かつ、 治療方針等について文書を用いて当該患者に説明した場合に、患者1人につき1回に限り算定する。

 

診療報酬の算定方法の一部を改正する告示(令和6年厚生労働省告示第57号)/
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001251499.pdf (2024年6月時点)
診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(令和6年3月5日保医発0305第4号)/
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001252052.pdf (2024年6月時点)
 

エキスパートパネルは、がん遺伝子パネル検査の結果に基づいた推奨治療及び2次的所見の有無を検討する専門家会議です。ここでの検討結果が患者さんの治療選択に直接反映されるため、わが国のゲノム医療提供体制において重要視され、その構成員についても保険要件で定められています。
令和4年3月3日の厚生労働省健康局がん・疾病対策課長通知により、エキスパートパネルの実施要件が変更され、持ち回り協議(ファイル共有サービスや電子メール等を介して各構成員が評価を行うこと)により、当該対象症例に対するすべての出席者の見解が一致した場合においては、出席者がリアルタイムで協議可能な方法でのエキスパートパネルの開催は必要としないことが定められました。

エキスパートパネルの実施要件

エキスパートパネルの実施要件について(抜粋)1)
  1. エキスパートパネルの開催にあたっては、2のアからクまでに該当する者がそれぞれ1名以上出席することとし、出席者がリアルタイムで協議可能な方法とすること。その際、セキュリティが担保されている場合に限り、画像を介したコミュニケーションが可能な機器を用いたオンラインでの参加も可能とする。
    なお、エキスパートパネルの全ての出席者が、セキュリティが担保されたファイル共有サービスや電子メール等を介してそれぞれ評価(以下「持ち回り協議」という。)を行い、対象症例において遺伝子異常が検出されていない場合や、検出された全ての遺伝子異常について治療方法の選択に関するエビデンスが既に確立されていると考えられる等、当該対象症例に対する全ての出席者の見解が一致した場合においては、出席者がリアルタイムで協議可能な方法でのエキスパートパネルの開催は必要としない。この場合においてもエキスパートパネルは開催したものとする。ただし、持ち回り協議の全ての出席者の見解が一致しない場合は、リアルタイムで協議可能な方法でのエキスパートパネルを開催する必要がある。(詳細については別途定める事務連絡を参照のこと。)
持ち回り協議のみの実施でリアルタイムでのエキスパートパネルを必要としない症例2)
  1. 遺伝子異常※1が検出されなかった場合
  2. 検出されたすべての遺伝子異常※1が、以下の(1)〜(4)のいずれかに該当する場合
    1. 「次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス※2」におけるエビデンスレベルAの遺伝子異常
    2. 同ガイダンスにおけるエビデンスレベルRの遺伝子異常
    3. 高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)
    4. 高頻度腫瘍遺伝子変異量(TMB-High)

※1 ここでの遺伝子異常には意義不明変異(VUS)は含まれない。
※2 日本臨床腫瘍学会・日本癌治療学会・日本癌学会の3学会合同で策定されたガイダンスの改定第2.1版。

1)厚生労働省. 健が発0303第1号, 厚生労働省健康局がん・疾病対策課長通知, エキスパートパネルの実施要件について(令和4年3月3日)より改変
2)厚生労働省. 健が発0303第1号, 厚生労働省健康局がん・疾病対策課事務連絡(令和4年3月3日)より改変